Roads to Lord Scenario 04
「巡り来る春に」
プレイレポート


life goes on.


プレイ日時:2004年11月16日
GM:しあん(都田祥)
PL:こあらだ、緋河



そのセッションは、開始10分前、こんな一言から始まった。

GM「じゃ、まず私に、そのPCにとって『既に失ってしまったもので一番大切だったもの』を教えて下さい」

…プレイヤー二人に、「…何のことだろう」という顔をされる。
当然である。
まぁそれでも、「とにかく、後10分以内に決めろ」ということで、PLに、そういう難しいものを決めて頂く。

結果、こんな感じになった。
まず、こあらださんのキャラクター。

名前「クルツ」
<クステ> 大亀の瞳
人当たり穏やかな21歳の青年で、騎士の生まれ。
(…ただ、酒を飲むと悪酔いして正確が180度転換する)
失ったもの:
 許嫁。騎士の家の次男坊だったクルツは、彼女の家に養子に入ることになっていた。
 だが、ある時、彼女は疫病によって突然に帰らぬ人となる。
 子供の頃に喧嘩して、隠してしまった彼女のブレスレットを返すことが出来ぬままに。
一番大切な人も、帰る場所も失った彼は、目的も見いだせぬままに<王の道>を彷徨い続ける。

次、緋河さんのキャラクター。

名前「グレイ(グレース)」
<クステ> 鷲の瞳
男装の女性。23歳。完全に男として振る舞っている。
(クルツは、彼女が女性であることに気付いていない)
その理由は…
失ったもの:
 故郷。南海の船乗りの家に生まれた彼女は、幼い頃に両親を亡くした。
 そんな彼女を引き取って、育ててくれたのが、彼女にとっての兄「キト」と、そのお母さんだった。
 キトは漁師で、グレイ(グレース)を、本当の妹のように、娘のように育ててくれた。
 幸せな時代は、長くは続かなかった。
 ヒュノーの海賊に襲われた小さな漁師町は、あっという間に壊滅した。
 キトは、自分の町、妹の住む町を守るために、戦って、死んだ。
 彼女には、何も残らなかった。
彼女は、そんな自分を許すことが出来ず、長かった髪を切り、名を変え、男として────自分を偽って、生きることを選択する。
故郷を失った彼女に、帰る場所などあるはずもなく、<王の道>で、クルツと出会ったのも、単なる偶然ではなかったのかも知れない。

…というような…
この辺からいきなり痛いです。
しかも、これらのキャラクターは、このセッションのために作ってもらったのではなく、こあらださんと緋河さんの持ちキャラ。
…ごめん。重い設定つけさせて。


ストーリーは、二人のPCが、山道を歩いているところから、始まります。

GM「季節は、早春。山はまだ雪に覆われ、里にも、まだ雪が残っている頃。
 あなたたちは、街道を歩いています」

峠を越えると、その向こうには盆地が広がっている。
山に囲まれたその盆地には、小さな森と、人間族の村がある。
街道は、村に続いており、その向こうに抜けるためには、村を通り抜けなければならない。

というわけで、キャラクター達には村に行って貰いました。
で、村に降りてみると、何となく、人影がまばらなわけです。
しかも、何となく不安そうな表情を浮かべています。

…しかも、其処に見える姿は老人と子供ばかり。
「何やねん」とか思っていると、一行を見つけた子供に、

「あ! ねぇ見て見て! 強そうな人たちが来たよー!」

といきなり叫ばれて、一挙に注目される二人。
…ま、実際に『強そう』かどうかはともかく、武器持って旅してたら、子供には何となく強そうには見えるってことで。

で、『強そうな』二人は、そのまま村長の家に連行されます。
(村人「村長呼んでくるで、まっとってくれ」クルツ「いえ、それには及びません。我々の方が伺いましょう」という流れでしたが、本当は)

そして、二人は、村長から、こんな話を聞きます。

村長「あの、実は…ですね。この村で今、少し…いえ、とても困った事態が起きていまして」

村長の話によると、この村で起きている事件というのは、

 ・1週間ほど前に、生まれたばかりの赤ん坊を亡くした母親が、行方不明になった。
  (女性の名前は、アリア)
  それだけならまだしも、その母親を探しに行った村人が、一人を除いて全員行方不明になった。

というもの。
この村には、300年ほど昔に、若くして死んだ少女を祀ってある祠があって、成人前の子供が死ぬと、必ず其処に埋葬するしきたりが、あります。
若い母親は、自分の子供の墓参りに、村の森の中にある祠に向かい、行方不明になったらしいということも、分かりました。
祠は小さな石碑と一本の桜の古木があるだけの、簡単なもの。

そして、『帰ってきたたった一人』の話を聞いてみよう!ということで、その人物を呼んでみると、その人物は、15歳の、「何不自由なく育ってきた」少年でした。

少年の話により、こんなことが明らかになります。

・森の中を歩いていたら、傍にいたはずの人々が、祠の近く辺りでみんな居なくなってしまった。
・自分以外は、みんなもっと大人だった(彼の親とかの世代)

そして、祠に至るまでは一本道で、行方不明になろうはずもない、ということが分かります。

残った村人にとっては、そこに行けば、自分も同じ目(それが何かはわからないのだが)に合うかも知れないわけで、探すに探せず、困っていたところに二人が現れた…というわけです。

村長「…というわけなのですが、どうか、事の真相を究明し、村人達を探しては頂けませんでしょうか?」
クルツ「どうだろう、グレイ? 私はこの件を引き受けてみようと思うのだが」
グレイ「…別に異存はない」
クルツ「村長。あなたがたにとって我々がどのように見えているかは分かりませんが、我々とて、分の相応不相応はわきまえているつもりです。お礼をいただくつもりもありませんが、また、出来ることしかしません。それでも構いませんか?」
村長「もちろんです。お受け頂けるのですね、ありがとうございます」

というわけで、依頼を引き受けた二人は、森の中の祠へ向かいました。


森の様子は、至って普通。
森は、人の手の入った雑木林で、早春の明るい曇り空の下、鳥の囀りが聞こえてきます。

グレイ「特に変わった様子は感じられないが…」

話に聞いていた、祠の辺りまでやってきた頃でしょうか。
不意に、目の前が開けます。
村があります。
…そう、自分がさっきまで居た村と全く同じ村が。
ただ、唯一違っていることはといえば、その中央には、『桜の大木』があるということ。

不審に感じた二人は、来た道を戻ってみますが、見えてきた村の中央には、やはり桜の大木が。

こあらだ「る、ループしてるー!!!」

虎穴に入らずんば虎児を得ず、と、クルツとグレイは、その『村』の中に足を踏み入れました。


GM「では、心魂のRRをして下さい」
クルツ「(ころころ)あ、結構高い。大丈夫かな」
グレイ「(ころころ)………1ゾロ! ファンブッた!!!」



 クルツは、訝りながらもその『村』へと足を踏み入れる。
 その時、傍らで、声がした。
「クルツ!」
 高く、甘い、澄んだ声。
 聞き間違えようはずもない。
 声に振り返ると、そこには見慣れた、しかしもう二度と見ることの出来なかったはずの、少女の顔があった。
「どうしたの? 驚いた顔をして」
 これはまやかしだ、とクルツは心の中で呟く。
 覚えている。
 あの時、棺の中で、冷たく、固くなった少女の手の感触を。
 棺の中の少女は、白く冷たく、美しかった。
 手を伸ばし、少女の手に、触れた。
 ───────その手は、温かかった。
 その手の温もりは、<真実>だった。
「シャルロッテ…何故、ここに?」
「私は、ずっとここにいたわ。あなたを待っていたの」
 そう言って、少女は微笑んだ。
 温かく、柔らかな少女の手を握り、クルツは、どうすることも出来なかった。
 振り切らなければ、と、思った。
 ───────しかし、自分の目の前に居る少女は、紛れもない真実だった。…そのようにしか、見えなかった。
 言葉が、口をついて出た。
「…ただいま。シャルロッテ」
「お帰りなさい」
 シャルロッテと呼ばれた少女は、クルツを見つめて、にっこりと微笑んだ。


クルツ「ど、どうしよう…」
GM「さて、どうしましょうかねぇ(苦笑) さて、ではグレイ」


 グレイは、顔を上げた。
 磯の香りが立ち込めている。

 グレイ?
 違う、そんな名前は知らない。
 私の名前は、グレースだ。

 何故か、そんなことを思った。

「どうした? グレース。何ぼーっと突っ立ってるんだ?」
 すぐ傍で、兄の声がした。
 顔を上げると、日に焼けた兄の顔が、にこにこと笑って、彼女を見下ろしていた。

 真夏の空は青く、高く、風が吹き抜けていく。
 雲ひとつ無い青空が、頭上に広がっていた。

「お腹が空いた」
 と、グレースは言った。
「何だ、だから黙っていたのか。飯ならもう出来てるぞ。兄ちゃんの料理だからな、旨いぞ」
「うん!」
 あどけなく、少女は笑った。
 そして、何故だか、泣きたくなった。

 路地の向こうに海が見えた。

 海の上には、裸の桜の木が、立っている。

 彼女は、そのことを別に、不思議にも思わなかった。


グレイ「う、うわー。うわー!」
GM「では、このシーンは切って、クルツ」


 少女の瞳を見つめていたクルツは、ふと、仲間のことを思い出した。
 ここまで、共に道を歩んできた仲間のことを。
「どうしたの?」
 と、少女が尋ねた。
「いえ、私の友人が…」
「一緒にいた人ね? 探しに行くの?」
 小首をかしげて、少女が尋ねる。
「ええ。一緒に行ってくれますか?」
「もちろんよ」
 微笑んで頷いた少女の手をとって、クルツは、仲間の姿を求めて、走り出した。

 そこここに、人々の姿があった。
 生まれたばかりの赤ん坊を抱いている母親、子供と遊んでいる父親、老いた母親の手を取って話している、男性。
 みな、幸せそうだった。

 もしも───────
 もしも、これが、本当に真実であると、信じられたなら。
 今、この手の中にある温もりが、真実であると、信じられたなら。
 …それは、幸せなことなのかも知れない。

 クルツは、少女と共に走りながら、そう思った。
 けれど、夢を見るにはもう、彼女を失ってから、時が、経ちすぎていた。

 † † † † † † † † † † †

「どうした? 食欲無いな。今日」
 そういった兄の声で、グレースは、そちらに振り向いた。
「そんなことないよ」
 と答える。
「何だー? いつもはもっと喰ってるじゃねえか。…それとも、今日の料理は失敗したか? 俺」
「ううん、そんなことないってば。美味しいよ」
「そうだよな、俺もそう思ってたんだ」
 そう言って、屈託なく笑う兄の顔が、何故か懐かしい。

「あ、俺さ…」
 いつものように、グレースが言いかける。
「グレース。いつも言ってるだろ、女の子は俺なんて言っちゃ駄目だ」
「そうよ、グレース。女の子は、もっと丁寧にお話ししなくっちゃ、駄目よ」
 食卓についていた母親が、微笑みながらそう言った。
「漁師町だから、そう柄が良くないのはわかってるがな、兄ちゃんはもっとお前に、女の子らしくして欲しいぞ」
「うるさいなあ、兄さんは」

 いつもの食卓の、いつもの会話だ。

 窓の外に見える海には、桜の木が立っている。

 † † † † † † † † † † †

 グレイを探して、クルツはふと、自分が見たこともない場所にいることに、気がついた。
 磯の香りが、鼻孔をついた。
 嗅ぎ慣れない匂いに、多少顔をしかめながら、クルツは辺りを見回した。
 少女のほうを振り返ると、少女は、驚いた風でもなく、微笑んでいる。

「ここは、どこなんでしょう?」

 誰に聞くのでもなく、クルツは呟く。
 誰の夢、誰の───────失ったもの、なのか。

 直ぐ目の前の家の中から、声がする。
 南国風の開放的な造りの家からは、ほうぼうから生活音が響いていた。

「おい、グレース。食器を洗うのはお前の仕事だろう? 食後30分以内!」
 明るい、男性の声だ。
「わかってるよ、もう」
 答えた声は、少女のもののようだった。
 …クルツはその声を、何処かで、聞いたことがあった。

 直ぐ目の前の、勝手口の扉が開いた。
 赤銅色の長い髪の、活発そうな少女が、洗い桶を手に飛び出してきた。
 目があった。

「グレイ?」

 思わず、そう呟いていた。

 † † † † † † † † † † †

 目の前にいる、漁師町にはそぐわない、若い男。
 誰?
 …と、言いかけた口を、グレースは噤んだ。
 私は、この男を知っている。
 そう思った。

 グレース?
 …違う、その名前は捨てたんだ。
 私…俺の、名前は…

「グレイ?」

 クルツが、そう言った。

 ───────世界が、滲んで、消えた。

 頭上には、白く輝く空が広がっている。

「俺…は…?」

 周りに広がるのは、早春の村の風景。
 その中央には、桜の木が立っている。

 思い出した。
 そうだ、私は、全てを失ったんだ。
 兄も、母も、そして、あの町も。


 クルツには、わからなかった。
 けれど同時に、全て分かった気が、した。
「グレイ」
 そっと、声をかける。
 グレイが、顔を上げる。
 その髪は、短かった。
「あ、紹介しますよ。こちらは、私の友人でグレイと言って…」
 そう言って、クルツは振り返る。

 其処には、誰も居なかった。

 その手の中にあった温もりも、全て、嘘だったかのように。

 違う。
 そうだ、始めから───────全部、嘘なんだ。
 わかっていた、はずなのに。

 クルツは、首を振った。
 そして、目を開いて、グレイを見た。

「探しましたよ、グレイ」
 そう言って、微笑んだ。


というわけで、漸く二人は自分たちの幻想を振り切りました。
周囲を見回すと、色々なところに人々がいます。
全て複数の人間のグループで、グループの数は、村から行方不明になった人数と一緒。
それらの人々は、「まるで他に世界など存在しないかのように」幸せそうに見えます。
しかし、これは、この世界は、二人が気付いたように、幻影です。
自分たちの願いが、失ったものを取り戻したいという願いが、具現化しているだけの幻です。

二人は、様々なところを探すうち、たった一人、桜の木の下で佇んでいる少女を、見つけます。
白い服、黒い髪、緑色の瞳の、12,3歳の綺麗な女の子です。

クルツ「あなたは、…誰ですか?」
少女「私は、誰でもないの。フィラ。<私は何処にもいない>」
グレイ「…ここは?」
少女「ここは、何処でもないわ。天国でもなければ、牢獄でもないの。
 …もしも、ここにいることが不幸だと感じるのならば、それは、あなただけじゃないわ。
 あなたたちは、それに気づけたけれど」
グレイ「…何故、この木だけ、常に変わらないんだ?」
少女「それは、ここにある中で、この木だけが、本当の存在(もの)だからよ」

この少女は、お察しの通り、「300年前にこの村で若くして死んで、祠に祀られた女の子」です。
そして、「始まりさえ解ければ、幻は全て消える」ことを、教えてくれます。
この異空間の存在は、「赤ん坊を亡くした、母親の思い」が引き金となり、霊樹となった桜の大木に眠る「失くしたものを悼む想い」が呼び覚まされたためのものでした。
少女は、二人に、こんなことを言います。

「ねえ、幸せなものかしら? 自分のために流される涙は。
 自分への思いにとらわれている人をみることは。
 それは、嬉しいことなのかしら。
 私は、ここに捕らわれている。私は、ここを動けない。私のために流された涙のために。
 流された涙を受けて、この木は育ってきたから。
 私のことを本当に思いだしてくれる人が、もう、誰も居ないとしても」

この幻の中では、時は過ぎません。
しかし幻の外の世界は、たゆみ無く移ろい、変わってゆきます。
「本当を、生きなければ」
二人は、そう決意します。

ここで、GMは、このシナリオの解決方法、つまり、「幻を打ち破る方法」を、実は二つ用意していました。

ひとつは、「母親に、子供を失ったことを思い出させること」(この事件の発端の解決)
もうひとつは、「桜の木を切り倒す」(異空間の存在する根本原因を絶つ)

二人が選んだのは、前者の方法でした。

GM「あなた達の目の前には、少女と桜の木があります。
 そして、周囲をあなた達が見回すと、辺りは、広大で、ひどく静かな、真っ暗な空間になっていることに、気付きます。
 桜の木を中心に、幸せそうな人々が様々な場所に居るのが見えます。
 真っ暗な空間の中で、人々の存在する箇所だけ、まるでスポットライトが当たっているかのように明るくなっています」
クルツ「その中から、その母親───────アリアの場所を探します」
GM「では、あなたが見回すと、あなたから見て、一番遠くに、その姿が見えます。どうしますか?」
クルツ「…私は、そちらの方に向かいます」
GM「グレイは? どうしますか?」
グレイ「俺も、向かう。…説得は本当は迷って居るんだけど、クルツが何を言うのかは、知りたい」
GM「───────では。そちらへ歩みを進めようとすると、遙か遠く、離れていたはずなのに、2,3歩歩みを進めただけで、あなた達は、アリアのすぐ傍まで来ていることに気付きます」
クルツ「では、母親に話しかけます。気がつかせるのに、魅力RR20でしたね?(ころころ)はい、成功しました」


以下、ほぼそのまま実録、クルツとアリアの会話。

クルツ「あなたは、アリアさんとおっしゃるのですね?」
アリア「…しーっ…静かに。この子が、起きてしまうわ。今、眠ったばかりなの」
クルツ「それは失礼しました。可愛らしいお子さんですね」
アリア「そうでしょう? 私の一番大切なものよ、この子は」
クルツ「…そのこの名前は、何と仰るのですか?」
アリア「この子の名前? ずっと考えていた、いい名前よ」
クルツ「何と仰るのですか?」
アリア「この子は───────この子の名前は……変ね、思い出せない。
 いやだ、私、どうしたのかしら? この子の名前を忘れてしまうなんて」

…間抜けな話ですが、実は、GMが名前を考えるのを忘れていたのです。
クルツのプレイヤーが、それを拾いました。じゃあ、まだ名前は付いてなかったんだ、と。

クルツ「…その子の名前を、あなたは、呼んだことがあるのですか?」
アリア「あるわよ、もちろん。…あるわ」
クルツ「本当に?」
アリア「本当…よ。でも、…思い出せないの。いい名前なのよ、ずっと考えていて…それにしようって」
クルツ「その名前は、本当にあなたが考えたものだったのですか?」
アリア「一緒に、沢山考えてたの。そして、あの人が、そう言ったから、それがいいって。
 それが一番いいって言って…だけど、そうよ、そうだわ。
 あの子は、私が、その名前を一度も呼ぶ前に、死んでしまった。
 ───────どうして? どうして、忘れていられたの!?
 あの子を、失ってしまったことを!」


アリアが真実に気付いた瞬間、暗闇が晴れ、異空間は消滅します。
アリア、行方不明になった村人たち、そしてクルツとグレイは、祠の前の森の中に、呆然と佇んでいました。


「…また、失ったんだ。私は」
 不意に浮かび上がってきたそんな言葉に、胸が痛んだ。
 あの温もりは、確かに真実であるかの如く思えたのに。
 クルツが、仲間の顔を見ると、グレイは、毅然と前を見据えていた。
 青灰色の瞳には、涙は無かった。

 人の心が理解できる、などということは、本当には無いのかも知れない。

 けれど、今は、涙を流さない彼女の心が、手に取るように分かる気がした。

 桜の白い花びらが、ひとひら、目の前をふわりと、行き過ぎた気がした。

 拳を握りしめ、顔を上げたクルツの目には桜の木が、滲んだ白い空の下、満開であるかのように見えた。



総プレイ時間、1時間(笑)
ものすごーく濃い1時間でした。長さではなく。
…このプレイレポ、端から読んで面白いかどうかちょっと微妙なのですが、ともかく、プレイ後1日でこんなものを書いてしまうくらい、プレイした人間達にとっては面白かったってことで。
まさに、全て。PLとGMの共同作業で作り上げたお話でした。
PLのお二人、本当にありがとう。楽しかったよ。




失ったものを悼んでも。
何かを失い、自分自身を見失ったとしても。

それでも、人はいつの日か、立ち上がらなければならない。

"Life goes on,"
それでも人生は続いていくのだから。