二.

 国の名は、弓月という。国の起こりは三百年程昔、大王がこの地に国長の祖先を使わしたことに始まる。その祖先の呼び名が弓月の君といったので、それが国の名の由来となった。また、弓月の君は大変な弓の名手であり、その為弓月という名で呼ばれることになったとも伝えられている。
 国の起こる前、この地は月人と呼ばれる異人の支配する土地であった。月人とは、また夜の一族とも呼ばれ、その名の通り夜の世界を支配するもの、言うなれば、夜行性の人間たちであった。月人は策略を好む好戦的な一族で、この地に住まう民を脅かし、その噂を伝え聞いた大王が、大きな信を置く弓月の君をこの地に遣わしたという。弓月の君の率いる軍勢は、月人との死闘を繰り広げた後、この地を平定した。その功により、弓月の君は大王よりこの地を賜ることとなった。その後、僅かに残った月人との和睦の宴が開かれたが、月人の残党は、この席で弓月の君の毒殺を試みたらしい。が、その謀は事前に露見し、月人の残党は悉く斬首されることとなった。同時に、この地において、月人の血が禁忌となったと伝えられる。里に月人の血を引くと思われる子供が生まれると、その子供は即刻処分され、また、その一族郎党も皆殺しにされた。というのも、月人とはきわめて特徴的な外見を持つ人々であったからだ。月人は血の色以外の色を持たなかったといわれる。肌は真白で、瞳は紅、髪は銀という常人離れしたその容姿が、妖を連想させたことも、その血の排斥を加速させたのかもしれない。
 そのようなことが百年余り続き、やがて、里に月人の外見を持つ者が生まれなくなった頃、この地を流行り病が襲った。猛威を振るう流行り病は、月人の呪いであると噂された。
 月人の怨念を鎮めるため、そして国の存続を願うために常葉の社が建造されたのは、この頃のことである。常葉の社には、代々国祖弓月の血を引く処女が姫巫女として遣わされ、その風習は、凪姫が謎の失踪を遂げるまで続いていた。

 部屋の明かりは三つ、それでも闇を押し戻すことは出来ない。脱ぎ捨てた舞の衣装がそのまま、部屋の中に落ちている。微かな風に、灯明台の明かりが揺れた。
 暁姫は、脇息に寄りかかったまま、外の物音を聞くとも無しに聞いていた。
 結局、暁姫が宴で舞を舞うことは無かった。暁姫としては、それはそれで喜ばしいことなのだが、場合が場合だけに、それを喜んでもいられない。宴はその半ばで中止され、今は、どこか重苦しい空気の中で、その片づけが粛々と行われていた。
 常葉の姫巫女の所為だ、と、誰かの呟いた声が耳に蘇った。誰の言葉かはわからなかったが、その瞬間、座の敵意のようなものが、自分に向けられたのを、暁姫は感じていた。
 ────聞いた話によると、凪姫は大変な楽の名手であったのと同時に、舞の腕も見事なものだったそうだ。暁姫は楽も舞も好まなかった。才があるようにも感じなかったが、そもそも、上達しようという気も無かった。
 それはつまり、いつ何時も自分に付き纏う凪姫の影を好まない、ということだ。
 姿かたちが似ているのは、叔母と姪の関係がある以上仕方の無いことなのかもしれないが、そんなことよりも、ふとした仕草に、言葉の端に、まるで凪姫と自分が同じ人間であるかのように見なされる、そのことが耐えがたい。
 凪姫は、美しくもひどく感情的な人物であった、と、人はいう。普段はたおやかで大人しいものの、一度その激情に火がつけば誰にも止められず、また、彼女の決意を挫くことは、誰にも出来なかった。それゆえ、凪ではなくいなさ、野分と仇名された。
 常葉の姫巫女として凪姫が立てられたのは、凪姫が成長してからのことだったらしい。当時、常葉の姫巫女の候補としては、他にも弓月の血を引く娘は何人か居り、凪姫はその一人に過ぎなかった。凪姫は国長の娘、弓月の直系ということで、むしろ姫巫女とされる可能性は低かったとも言われている。しかし、凪姫の情の強さに恐れをなした先の国長である彼女の父や、国の重鎮たちが、彼女を常葉の社に閉じ込めることを選んだのだ。一説に拠れば、常葉の姫巫女の候補でもあり、許婚のある身でもあった凪姫は、他の男に恋をしたのだ、という。その心を変えさせることが誰にも適わなかった故に、彼女は常葉に追われたのだ、という話もあった。ことの真偽はともかく、結果は、人の知るとおりである。
 その凪姫と、暁姫は同じように見なされている。松馬や、父や兄、暁姫と極めて近い立場にある人間は違う。けれど、里の者の噂や、先の国長の時代から館で働く者たちは、暁姫を苛むことをやめない。いつか、暁姫も、凪姫のようになる、と。
 そのようなことを言われつづけるくらいならば、常葉の姫巫女として社に行った方がはるかにましだ、そうすれば違いを証すことが出来ると暁姫は思うのだが、暁姫にはそれすらも許されない。
 凪姫が感情豊かな人物である、というので、暁姫は殊更感情を封じてきた。楽に秀でていると言うので楽を嫌い、また、凪姫が女らしく美しかったと言われているので、暁姫は、立ち居振舞いから武術を学ぶに至るまで、自らより女らしさを排除するよう努めてきた。
 要するに、凪姫の影ではなく、一人の人間として認められたいのだ。それは今もって、叶わぬ望みではあったが。
 その暁姫を、支えつづけてくれたのが、兄の空木の君の存在だった。母親に愛されなかった、という厳然たる事実から暁姫を救ってくれたのも、兄であると言える。
 兄に対する気持ちは、ほとんど崇拝にも近いような侵しがたいもので、それがあるゆえに決して強くは無い暁姫の心は支えられていたのだ。それが故に暁姫はここに生き、呼吸が出来るのではないかと、そんな気がしていた。
けれど、と、彼女は思う。暁姫は、宴の場での出来事を思い出していた。

 時刻は、宴も後半に差し掛かった辺りだったと思う。仕度を整え、暁姫が宴が行われている本殿へ、足を踏み入れたときのことだった。
 突然、館の表が騒がしくなった。────早馬のようだ、と、暁姫は思った。
 こちらへおいで、と、兄に言われ、上座に近い兄の横に座る。
 伝令の衛士が、本殿の入口まで駆け込み、それまで、影のように控えていた国長の侍従に用件を耳打ちする。低い声で、口早に話される 言葉は聞き取れなかったが、ひどく良くないことが起きている気がした。
 侍従が頷き、衛士が本殿から下がった。侍従はそのまま国長の元へ向かい、国長に耳打ちを行う。何が起きたのか分からず、兄の顔を見ると、兄は、微かに難しい顔をして何か考え込むような表情を見せていたが、暁姫を見て、安心させるように微笑んだ。
 国長の灯月は侍従の言葉を聞き終わるが早いか、手短に大宰に何か言い、座に向かって、役付きでないものは下がるように、と言った。人払いである。
 暁姫も下がるべきかと思ったが、何故か、その場で起きている事態に立ち去りがたい何かを感じていた。その暁姫の様子に、目ざとく気づいた者があったようだ。
「下がられよ、暁姫殿。ここは女人の出る幕ではない」
 下臣の一人が、表情に劣らず苦々しい口調で言った。
 それを一瞥し、暁姫が口を開く前に、国長の隣に座った、大宰の柊白が言葉を発した。
「まあ良いではありませぬか。暁姫どのは、いずれ政に関わるかも知れぬ身、このようなことに関わるのも、後学になるでしょう」
 息子に負けず劣らず、滑らかで冷たい声だ。白々しい、と誰かが呟いた。柊白は、先の国長の第一子でありながらも、妾腹ゆえに国長となれなかったのは周知の事実だ。それゆえ、自らの果たせなかった野望を息子に託しているのだ、というのは国中に聞こえる噂だ。
 即ち、空木の君が死ねば、後を継ぐのは暁姫の許婚である秋霜である、ということだ。
「大宰殿のご子息の姿が見えないようだが? 秋霜殿こそこの場におるべきではないか」
 問うたのは、初めに暁姫に言葉をかけた下臣だ。武官長を務めるこの下臣は名を早山といい、老齢の、生真面目な人物として知られている。早山は、柊白のことも蛇蠍の如く嫌っていた。早山が敬う態度を見せるのは国長と空木の君だけで、こと空木の君に対する早山の態度は、暁姫や柊白に対するそれとは違い、まるで孫を思いやる祖父のようだ。というのも無理からぬことで、蓮姫はこの男の姪であった。暁姫も姪の子という意味では条件を同じくしているが、それよりも常葉の姫巫女に対する嫌悪のほうが強いようであった。
「これはこれは、失礼を。至らぬ我が息子を案じてくださったこと、痛み入ります」
 口元に笑みを浮かべて、柊白は答えた。
「しかしそれは、問題にはなりますまい。こちらには暁姫がいらっしゃるのですから」
 この言葉に、当の早山ではなく、暁姫が反論をしかけた時、国長が手を上げてその場を制した。暁姫を見て頷く。そこに座っていろ、という意味だ。場が静まったところで、漸く国長は口を開いた。
「里に月人が出た」
 静かな声で告げられた言葉の内容が、一瞬理解できなかった。
「月人……とは、あの……」
 伝承の中でしか聞いたことの無いその言葉に面喰らい、思わず、父の言葉に問い返す。
「お前も知っているだろう。かつてこの地を支配していたといわれている、あの月人だ」
「はい、それは存じております。しかし……」
 出た、というのはどういうことだろう、と考えてしまう。
「里に赤子として生まれた、とのことですよ」
 慇懃な口調で、柊白が言った。その声には、充分に暁姫の察しの悪さを嘲る響きが含まれていた。
「────問題は、赤子をどのようにするか、ということですね」
 そう言ったのは下臣のうち、比較的年若の東雲という男だ。齢三十ほど、直接凪姫を知らぬゆえか、暁姫に対する風当たりは強くない。東雲は、歳若いながらも能吏として知られ、法と儀式の執行を主に司る、文官長を務めている。突然の出来事ながらも、既に平常どおりの頭が働き始めているらしいのは、さすが、というところなのだろう。
「掟に従えば、始末するしかなかろう」
 例の早山が決め付けるように言った。年若の東雲に対する物言いはやや居丈高だ。
「しかし、掟は旧きものに御座います。月人といっても、ただ色を持たぬだけのこと。それだけで民の子を殺すというのは如何なものかと思いますが」
「掟は掟だ。乱せば、国が乱れる」
 返す早山を、柊白が制した。
「問題は、それだけではないのですよ」
 場が、再び静まり返る。
「どのようなことでしょうか」
 突然そう言ったのは、空木の君だった。
「問題というのは如何なることなのでしょうか、伯父上」
 空木の君が、柔らかな声で尋ねる。その問いに、柊白が口を開いた。
「若君は、この間館より里に下がった雪野という娘はご存知でしょうか」
 若君、とは無論空木の君のことである。
「ええ、もちろん存じておりますよ。炊事場で働いていた娘だと思いますが」
 どうということも無く、空木の君が答える。
「左様で御座いますか。この度、月人を出産したのはその娘なのでございます」
 雪野は、暁姫も知っている娘だった。館の炊事場で昔から働いている女の娘で、年回りは暁姫と大して変わらない。小柄でよく笑う快活な娘で、暁姫が幼い頃は母親の手伝いに来ていた雪野と、こっそり遊んだことも幾度かあった。成長してからも、雪野が里に下がるまでは、幾度も言葉を交わした仲だった。
 雪野を思い、暁姫は胸が痛んだ。
 空木の君も、その言葉には一瞬気を飲まれたらしく、表情がにわかに深刻なものになる。
「して、父親は」
「それが問題なので御座いますよ」
 空木の君の言葉に、柊白も、珍しく含みを持たずに答えた。
「つまり……」
「雪野には夫はいない。そして、雪野は、身ごもっていたときも、今も、相手の名を口にしようとはしない、ということだ」
 柊白の言葉を国長が継いだ。
「雪野はこの館から離れることは、里に下がるまでは殆ど無かった。故に、この館に居る者がその父である可能性がある、ということになる」
「実際の問題として、どうなのでしょう。その子供のことはともかく、その親にまで累は及ぶのでしょうか?」
 再び、東雲が口を挟んだ。
「月人の記憶の新しい時代ならともかくも、現在はそのようなことは些か野蛮に過ぎると申した方がよさそうですな」
 柊白が、言う。
「それでは、そのことをはっきりとその娘にただしてやれば、父親の名も口にするかもしれませぬ」
 東雲が言った。
「それはまだ早計に過ぎよう。子供の処断を決めてからのことだ」
 やはり居丈高な口調で、早山が言った。この男には、どうも世の中に敵の方が多いようだ。ふと、そんなことを暁姫は思った。
「子供の処遇ですが、どうなさるおつもりでしょうか。国長殿。温情を示してやりますか」
 再び、口元に冷笑を漂わせて柊白が言う。
「それとも、やはり掟は掟、その赤子を処分いたしますか」
 国長が暫し瞑目し、口を開こうとした時だった。
 不意に、空木の君が声を上げた。
「処分するべきでしょう」
 座の注目が、いっせいに空木の君に集まる。
「掟は掟。月人のことはそもそもの国の成り立ちに関わるものなれば、ここは温情を見せるべき場ではないと、私には思われます」
 口調は変わらず穏やかだが、その中には何所か、断固たる響きがあった。
 心優しい兄の、意外すぎる発言に、暁姫は呆気に取られる。
 国長は、しばらくの間空木の君を見つめた。真っ直ぐに空木の君が父親を見つめ返す。
「……よかろう。空木の言うとおりに」
 東雲が、何か言おうとして、諦めて口をつぐんだ。
「如何なさいますか。掟に従うとすれば、月人の子は弓月の君の血を引く者が処分することになっておりますが」
 そう言ったのは、またしても柊白だ。
「空木の君にはそのようなことは不似合いかと思われますが。
誰が行うのですか。国長か、それとも……」
 柊白の瞳が、こちらを見据えた。
「暁姫が、その自慢の弓の腕をお役立て下さいましょうか」
 突然に言われて、暁姫は言葉を発することが出来なかった。
 今の今まで、自らの弓が、人を殺めることに─────例えそれが国の掟であるとしても、罪も無い、としか思えない赤子を殺めることになるとは、思っても見なかったのだ。
「何かあったときの為にその腕を磨かれていたのでしょう? ならば、これがその好機とは思いませぬか。これは、国のため、ひいては空木の君のためにもなるのですよ」
 空木の君、という言葉に少し力を込めて、柊白が言った。
 ────白羽の矢が立てられた瞬間から、自分には一つしか道が無いのだ、と、暁姫は悟った。即ち、是、である。
 乾いたくちびるを開いて、その言葉を搾り出そうとしたその瞬間だ。
「私がやりましょう」
 声は、座所の戸口から聞こえた。振り向くと、秋霜が立っている。
「弓月の君の血を引くという意味では、私でも問題ありますまい」
「しかし……」
 突然現れた息子の発言に、さしもの柊白も動揺を隠せない様子であった。
「私が思うに、そのような仕事は暁姫には荷が勝ちすぎるようです」
 暁姫に一瞥を加え、いつものように、父親とよく似た冷笑を浮かべ、滑らかな声で秋霜が言う。
「そのようなことは……っ」
 どうにか、声を絞り出したが、与えた効果は逆だったようだ。柊白が、ふ、と笑みを浮かべる。
「どうやらそのようだ。姫、ご無礼の段、平にご容赦を」
 まるで、予め取り決めでもあったかのように、柊白はいつもの調子を取り戻した。
「よろしいでしょうか、国長どの」
 秋霜は戸口に跪き、灯月に向かってそう言った。
「良かろう。執行人は、柊白が息子、秋霜を任じる」
 灯月が、よく通る声で答える。
「御意」
 秋霜は、跪いたまま、深々と礼をした。
「刑は掟に従い、赤子の生まれた三日後に執り行う。刑場の用意は柊白に任せる。その他、雪野に対する調べには、東雲を任じるが、異存は無いな」
 灯月が座を見回し、そう告げた言葉に、異論を唱えるものは居なかった。

 目の前で起きたことや、突きつけられた事実に、下臣たちが次々と立ち去る中、暁姫が立ち上がれないで居た。立ち去る下臣たちの誰かが、常葉の姫巫女の所為だ、と呟いた。
 月人の現れしは、常葉の姫巫女の不在が故である、と。
 ─────その言葉に、何を返せばいいのか分からない。
うつむいた暁姫の肩に、誰かがそっと触れた。空木の君だ。
「大丈夫か」
 いつもの、優しい兄だ。安心するべきなのか、暁姫には分からなかった。
 空木の君が、手を差し伸べ、暁姫を立ち上がらせる。
「お前には、少々酷だったね」
 柔らかな声で、空木が言った。
「兄上……」
 そう呟くのがやっとだった。ふと、父を見やると、空木の君を見つめている。その目には、どうにも不可解な光が浮かんでいた。
 空木の君は気づいているのかいないのか、暁姫は兄に促されて、その場を後にした。


 様々なことを思い返すうちに、ふと、暁姫は顔を上げた。
 何か、不可解なことが多い。時折、不思議な違和感を感じることは、昔からあった。
 まるで、自分の知らない何かがあって、言葉には全て、裏の意味があるように感じられることがある。そんなことをふと松馬に漏らしたら、誰もがそんなことを思うことはありますよ、と軽くいなされた。
 実際、今日のことは未だ、心の整理が付いていない。だからかもしれないとは思う。
 雪野の話は、聞いたときこそ胸の痛みを覚えたものの、今となってはあまりにも大きすぎて、何の感慨も沸いて来ない。そんな自分を薄情だと詰る自分がある一方、そのことよりも、兄の意見や、父の下した判断の正当性を訴えようとする自分がいる。
 赤子を、自らの手にかけることになろうとしたときには、あのように恐れを感じたにも関わらず。
 ────そうだ。何も知らずに生まれてきた、赤子だ。月人であることの罪とは、どれほどのものなのだろうか。何も知らない赤子を殺さねばならないようなことなのだろうか。
 いや、掟に従うことは、それほどまでに重要なのだろうか。
 そう考えながら、暁姫は再び常葉の姫巫女を思い出した。
 常葉の社は、月人の怨念を鎮める社だ。月人の再び世に現れしは、誰かの言ったように、常葉の姫巫女不在によるものなのだろうか。常葉の姫巫女さえ、あの地に留まっていれば、このようなことが起きることは無かったのだろうか。
 もしも────もしも、今、例えば彼女が常葉の姫巫女として立てば、このようなことが起きることはなくなるのだろうか。
 常葉の姫巫女は、生涯を常葉に捧げ、それ以降、社で行われる儀式にのみ、国長やしきたりによって取り決められた数人と会う以外に、外界とのかかわりを持たない。
 その人生の意味を、このとき初めて、暁姫は思った。


 雪野がその子諸とも産屋に火をかけ、自害したのを暁姫が知ったのは、その夜遅くのことだった。



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