八.

 この弓月の地において、幾年もの長きに渡り人を遠ざけておける場所は、暁姫の思い当たるところ、たった一つしかなかった。
 姫巫女不在の常葉の地である。
 かの少年は、常葉に在る。─────そのことを、暁姫は確信していた。

 月人の魂を鎮める地に月人が在るとはおかしなものだ、と、一人、馬を駆りながら暁姫は思う。目深に頭巾を被り、くすんだ衣を纏った姿は、遠目には暁姫とは分からない。無論、許されて館を出たわけではない。平時ですら一人での外出は許されぬ身、このような時では外出すら許されないだろう。
 それでも、あの少年に会わなければならないのだ。
 館には、いざというときの為に、国長以下数名の者のみの知る幾つかの抜け道があり、暁姫はそこを抜けて、館の外に出た。そこへ、松馬が適当な言い訳を見繕って、馬を一頭用立てて来、暁姫に受け渡した。松馬はそのまま、その辺りに身を潜め、暁姫と帰りに又、入れ替わる手筈となっている。
 あの少年には、確かめなければならないことが、幾つもあった。昨夜のこと、あの言葉の意味、そして、もう一人の月人────雪野の赤子と、彼には関わりがあるのだろうか。 
 暁姫とて、ことさら疎いわけでは無いので、それがどういうことかは分かっていた。ただ、もし自分の身に置き換えれば、相手は秋霜ということになる。それは、彼女が一番忘れていたいことの一つだったので、自然、そういったことに対する憧れは無かった。
 頭を振って、嫌悪感を払う。
 松馬の用立てた馬は用人が共用にしているもので、暁姫の持ち馬のような大人しい馬でもなければ、勿論、あの黒馬のような駿馬でもなかった。慣れぬ馬に気ばかりがはやり、ようやく虚空大師の領地まで行き着いたときには、常よりも遥かに時の過ぎたような気がする。
 木立の合間から、虚空大師の里が見える。里といっても、家は虚空大師の庵を含めて三軒ほど、ごくごく小さなものだ。虚空大師の死を悼んでいるのか、田畑に領民の姿は見えない。 虚空大師の庵を見やると、開け放されたままの戸から、暗い室内が垣間見えた。
 あの庵の中で、虚空大師は命を落としたのだ。
 昨夜、最後に見た虚空大師の様子が浮かぶ。あの時は見間違いだと思った、その全てが見間違いではなかったということだ。そう考えて、暁姫ははたと気づいた。昨日、虚空大師の元には、自分以外にもう一人、客人があったはずだ。それは一体、誰だったのだろう。 もちろん、領民の誰かであったということも考えられる。しかし、と考えて、暁姫は馬の手綱を引いた。馬が首を振り、足を止める。
 虚空大師の庵に立ち寄ろうか、と思う。自分の目で、庵の中を確かめたくなったのだ。
 昨日は気づかなかった何かに、気づくことが出来るかもしれない。そう思うが、役人が庵を何時検分にくるか分かったものではなく、ここで立ち止まるわけにも行かない。
 とにかく、あの少年に会うまでは、何者にも邪魔をされるわけにはいかなかった。
 暁姫が馬の腹を蹴ると、馬は一声嘶き、再び道を駆け始めた。

 松馬の話では、常葉は里からは隔てられ、また、他所より向かおうとすれば館、つまり国長の領地を通過せねばならない場所にあるため、もとより警備は手薄で、そして、常葉の姫巫女不在の現在は、無きに等しいものだという。
 その中間にあったのが、虚空大師の領地というわけだ。
 虚空大師の庵まで一時、そこから半時で常葉の領地に入り、社に辿り着くまでにはさらに半時だ。常葉の領地にはもちろん入ったことは無かったが、聞いた話では、そのほとんどが鬱蒼とした森に覆われ、社の周囲の僅かな土地が、常葉に暮らすものの田畑となっているらしい。さらにその昔、弓月の君のこの地に来る以前は、常葉の地は、月人たちが暮らす地だった。日の光を嫌い、当時から彼らは人の目を逃れるように、この場所に暮らしていたという。──────そして、今また、この地には月人がいる。
 話に違わぬ深い森の中に、一筋の小道が通っている。
 森に囲まれているにも関わらず、その道には張り出している根や石などは無く、馬でも充分に駆け抜けられるほどに整えられていた。
 長い時がそうしたのかもしれず、また、常葉は姫巫女不在とはいえ無人ではない故に、誰か、整えているものがあるのだろう。
 春の、晴れた昼日中であるにも関わらず、常葉の森は暗く、寒々としている。
 この地の一体何所に、あの少年は隠されているのだろう。
 彼女自身が期せずして言ったとおり、常葉の姫巫女の不在と月人の顕現には、やはり何か、関わりがあるのではないだろうか。
 そう思い、前を見やると曲がった道の先が、少し明るい気がした。全速力でかけていた馬は、次の瞬間にはその道を曲がる。
 突然、目の前が開けた。
 最初に目に飛び込んできたのは、痛いほどに青い、海だった。

 慌てて、暁姫は馬を止めた。
 目の前には広々とした草地があり、ごく小さな田畑がその中に拓かれている。
 その先は、岬だ。岬の向こうは、何も無い。海だけが青々と広がっている。
 暁姫の直ぐ前方には、二本の巨大な石柱が立っており、そこには何か、暁姫には読めない文字のようなものが彫り込まれている。岬の先の方には、石造りの建造物があった。
 あれが、常葉の社なのだろうか。
 足元の道は、このまま石柱の間をとおり、その建造物まで真っ直ぐに続いている。
 建造物の大きさはさしたるものでもないが、石で作られた建物というものを、暁姫は初めて目にした。
 不思議な場所だ。長い森を抜けてきたからそう思うのかもしれないが、明るくて、奇妙に寂しい感じがした。遠く海鳴りと、吹き抜ける風の音の他には、何も音が無い。
 見渡す限り人影は無かったが、様子から見て誰も居ないというわけではなさそうだった。
社の横に、真新しい塚のようなものが、二、三見える。掘り起こされた土が、未だ乾ききっていない様子で、昨日か、今日になって作られたもののようだった。
 その横にももう一つ、少し古い塚があり、ここからでは判然としないが、花が手向けられているように見えた。あの塚は、誰かの墓なのだろうか。
 近づこうかと思うが、少年を見つける前に、誰かに見つかっては、と迷う。
 次の瞬間だった。
 暁姫が馬の背から飛び降りるのと、暁姫のいた場所を矢が通過したのが、同時。
 突然のことに馬が驚き、走り出した。馬が居なくなっては困る、という思考が頭を過ぎったが、そんなことよりもこの場をしのぐことの方が先決だった。
 数歩、から足を踏んで、矢の飛んできた方に向き直る。その時には既に、暁姫は弓をつがえていた。馬は、そのまま岬の先端へと駆けてゆく。
「何奴だ!」
 姿の見えない相手に、暁姫は叫んだ。
「……何だ、あんたか」
 聞き覚えのある声が、森の入口の辺りから聞こえた。
「姿を見せろ」
 弓を引き絞り、低い声で、暁姫が言う。
「あんたが弓を降ろしてからだ」
 答える声は、落ち着いていた。暁姫は、奥歯を強くかみ締めた。従うべきか否かが分からない。その思考を見透かすかのように、声が再び聞こえる。
「俺はここから、いつでもあんたを射抜ける。あんたには無理だ」
 少し躊躇った後、暁姫は弓を降ろした。弦を引き絞っていた右の手首が、ずきずきと脈打つように痛む。しかし、気を抜くことは出来ない。暁姫は、声の聞こえた辺りを睨みつけた。
 森の際、一本の木の後ろから、昨日と同じ黒装束が姿を見せた。手には長弓が握られ、矢は番えられていないまでも、暁姫と条件は同じ、──いつでも撃つ用意はある、ということだ。
「何故ここに来た」
 問うたのは少年、短い言葉は鋭いが、特に何の感情も込められていなかった。
「お前を探しに来た」
「……何の為に」
 暁姫の答えに、少年がさらに問う。
 暁姫は、弓を持ったまま一歩、重心を取るために動く。
 それに合わせるように、少年が逆方向に、じり、と動いた。
「大師を……」
 暁姫が口を開く。
「虚空大師を殺したのは、何故だ!」
 叫ぶと同時に、暁姫は再び弓を番えていた。
 寸分違わず、少年の頭に狙いを定める。────あれだけ、人を殺めることに躊躇があったにも関わらず、今は、少年の返答如何では、彼を射抜けることが分かった。自分も、結局はそういう人間の一人だったのだ。確かめたいことなど、どこかに消えていた。
 他の何が分からなくなっても、大師を殺したのならば、この少年を殺す。それだけだ。
 少年は暁姫と同じように弓を番えかけ、途中で降ろした。
「俺じゃない」
 少年が、静かに言った。
「見た者がいる」
 暁姫が返す。
「……誰が見た」
「伝令が」
 暁姫の言葉に、少年は大きく息をついた。
「では言おうか。俺は、大師が斬られる場にいた。斬られる瞬間も見た。
 大師を斬ったのは、その伝令とやらだ」
「嘘だ!」
 少年の言葉を皆まで聞かず、暁姫が叫ぶ。
「嘘なものか」
「では、私の従者は」
「俺は殺してはいない。お前と同じように、明かりを落としただけだ。何より、時間がなかった」
 何に対する時間かと微かに思いはしたが、今は、考えている余裕など無かった。
「それに、俺は太刀は使えない」
 少年の言葉に、暁姫ははっと気づいた。大師の傷は一つ、鮮やか過ぎるほどに鮮やかな太刀傷だったのだ。
 少年が昨日、太刀を持っていたかどうかは思い出せない。しかし、今、少年が持つのは弓のみであることは確かだった。
「信じられるか」
 微かにぐらついた心を立て直すかのように、暁姫は声を絞り出す。
「何を言えば信じる?」
 少年が、そう言った。
「……俺には分が悪いな。お前は、別のものを信じている」
 少年の呟きに、暁姫は弦を引き絞る力を強める。
 覆面の奥の顔は見えないが、少年が逡巡するようにうつむき、やがて顔を上げる。
「昨夜」
 少年が、言った。
「今際の際に、大師に頼まれた。あんたを救えと」
 ────昨夜、少年が言った言葉が蘇った。何故と問うた暁姫に、少年は「頼まれた」と答えたのだ。
 そのようなことをこの場で言われても信じることなど出来ない、と思おうとする。
 少年は、保身の為に嘘をついているのだ、と。そう思って、ここで矢を放てば、全てが終わる。少年を殺してしまえば、この苦しみから解放される。
 要は、どちらを信じるかという話なのだ。
 兄の言葉と、少年の言葉と。────兄が。兄が正しい、と信じたかった。
 何故、───信じたい、と思うのだろう。正しいと思い切れないのだろう。
 ただ信じれば、それで済むことなのに。
 しかし、暁姫は心の奥底から、何かが湧き上がってくるのを感じていた。
 歯を食いしばっても、それを留めることが出来ない。言葉にならない叫びが、暁姫の口から零れた。同時に、弦を引いていた手の力が抜け、矢が、少年へ向けて放たれる。
 少年が、咄嗟に身をかがめ、暁姫に向かって飛び出した。少年に向かった矢は、少年の頭上を飛び越え、背後の木に突き刺さる。
 暁姫と少年の間に、さしたる距離は無い。次の瞬間には、暁姫の右手が、少年に抑えられていた。
「……俺もあんたに向かって撃った。これであいこだ」
 装束から突き出た手が、白い。暁姫も色は白かったが、それとは異質な白さだ。
 その白い手が、暁姫の右手首を強い力で取っている。
 不意に、体に一切の力が入らなくなるのが分かった。
 痛む右腕を、少年に捻り上げられているからではない。
 どうすればいいのか分からない。地面に、膝から崩れ落ちる。
 昨夜のような疲労とは全く違う。
 本当に、何もかもが分からなくなってしまったようだった。
 少年が、おい、と焦ったような声を出したのが、遠くから聞こえる。
 手放した弓が、地面に倒れたのが見えた。少年に放された右腕が、力なく地面に落ちる。
 ただ、一つだけ分かった。理由はわからないが、分かってしまった。
 大師が、少年に暁姫を託したのは、本当であるということ。
 少年は昨夜、命を賭して暁姫を救ったのだ、ということ。
 そこに、嘘が入る余地が無かった。
 自分の喉が、微かに動くのが分かる。
 引き攣れた喉の隙間から噴き出すように、感情が発現する。
 その大きさの余り見失っていた感情が、少年への殺意を経て、ようやく本来の形に戻る。

 気が付くと、突き上げるような慟哭が、常葉の静寂を切り裂いていた。
 
 はっきりとした時間はわからないが、かなり長い間、泣いていたようだった。
 少年は、暁姫の泣いている間、その場に黙って立っていた。
 あまりに激しい慟哭に、呆然としたか、恐れをなしていたのかもしれない。暁姫が泣き疲れた頃になって、ここにいると危ないから場所を変える、とぶっきらぼうに言った。
 暁姫が涙に汚れた顔を拭っている間に、少年が、暁姫の乗ってきた馬を社の裏手の厩舎に繋いでおいてくれた。礼を言うと、少年は、別に、と呟くように言ってそっぽを向いた。
 厩舎には、昨日の黒馬もおり、暁姫が見ると、人間のような瞳でこちらを見返す。
 泣いたことで体力を使った上に、思い返してみれば昨日から食事をとっておらず、暁姫は、完全に疲れきっている自分に気づく。
 立ち上がるのに苦労している暁姫に、昨夜よりは幾分優しく少年が手を差し伸べる。
 その手を握ることが何故か躊躇われたが、暁姫は少年の手を借りて立ち上がった。
 骨ばった手が自分の手を握る感触に、ひどく戸惑いを覚える。
 何故そのように感じるのかわからずに、暁姫は上目遣いに少年を見た。こちらを見る少年の視線とぶつかり、咄嗟に手を放して、目を逸らす。
「何故覆面を取らない」
 何か話さなければ、と思って口をついて出たのは、そんな問いだった。
「好きでつけているわけじゃない」
「私はお前の……」
 正体を知っているのに、と言いかけて、暁姫は口を噤んだ。彼女は、この少年が月人であることは知っていたが、その他の何も知らないことに、今更ながら気づいた。
「月人であることを隠すためだけじゃない」
 暁姫の意を汲んだか、少年が言った。
「俺は日の光に弱い」
 意味を取れずに問い返した暁姫に、少年は、
「日に当たると皮膚が赤く腫れる。それに、目がそもそも強い光を受け入れない。
 装束も覆面も、そのためだ」
と、相変わらずの口調で言う。
「では、月人が夜の一族であるのも、そのためなのか」
「かもしれんが、俺は別に、昔の月人の生き残りなわけじゃない。昔のことについては、あんたと同じくらいしか知らん」
 少年の言葉は意外に思えたが、考えてみれば、当然である気がした。里に、月人が生まれたように、この少年も突然現れたのかもしれなかった。
 同時に、一番初めの疑問に戻る。何故、少年はこの地にいるのだろう。
 姫巫女不在の常葉の地に住まう月人は、一体何者なのだろうか。
「お前、名は」
 そういえば、少年は暁姫の名を知っているのに、彼女は名も知らない。
「十六夜」
 暁姫の問いに、少年が返す。
「十六夜に生まれたから、十六夜だ」
 月人らしい名といえばそうなのかもしれない。
 が、その名づけ方には聞き覚えがあった。
「……私の名と、似ているな」
 暁姫の呟きに、覆面の奥で、十六夜は微かに笑ったようだった。
「当然だろう。付けた奴が同じだ」


 薬師寮を出たところで、秋霜は足を止めた。こちらに向かって、文官長の東雲がやってきたからだ。血筋としては秋霜が東雲に勝るが、身分としては、東雲が上である。
 秋霜は道を譲り、頭を下げた。しかし、東雲は彼の前で足を止める。
「秋霜殿が薬師寮に参られるとは、お珍しいですね」
 秋霜は、顔を上げて東雲を見た。────東雲の顔に、特に不審げな色があるわけではなかった。
「はい。つまらぬ用がありまして」
 答えた秋霜に、東雲は、
「何処かお加減がお悪いのですか」
 と、続けて問う。
「少々寒気が致しますので、伺っただけです」
「今は、薬師はいないのではありませんか?」
 首を少しかしげて、東雲が言う。
 それは事実だった。薬師たちは国長の治療にかかりきっており、薬師寮はもぬけの殻だ。
 だからこそ、今の内に片付けねばならないことがあったのだ。
「ですから、また出直すことに致しました」
 東雲は、秋霜の答えを聞いて、そうですか、とだけ言った。
 ────空木の君と同じく、何を考えているのかわからない男だ。秋霜はそう思う。
 ただ、東雲は怜悧なだけで、空木の君のような得体の知れなさは感じられない。
「何か、私に御用でしょうか」
 今度は、秋霜が東雲に尋ねた。
「ああ、そうでした。国長殿の意識が戻られたようですよ」
「……それはめでたいことです」
 答えるのに、一瞬間が開いたことを、秋霜自身意識した。
「して、国長は……」
 問い掛けた秋霜に、東雲が首を振った。
「いや、残念ながら、毒を盛られた前後のことは、思い出すことが出来ないというお話です」
「左様ですか」
 東雲にそう返しながら、秋霜はそれは真実だろうか、と考えた。
「ところで、秋霜殿。暁姫様を見かけられませんでしたか」
 突然暁姫の名を出されて、秋霜は落としていた視線を上げた。
「暁姫殿が、何か」
「国長殿のことをお伝えしなければと探しているのですが、お姿が見えないので、秋霜殿ならばご存知ではないかと」
 東雲には他意はないことは知っている。東雲は頭の回転の速い男だが、早山や、父の柊白、そして彼自身のように、言葉に毒や含みを持たせることは無い。
 それが、微かに秋霜を傷つけた。
「いえ、存じ上げません」
 答えてから、不意に気になって、東雲に尋ねる。
「若君────空木の君は」
「父君の寝殿にいらっしゃいますよ。薬師たちと共に」
 東雲の言葉に、秋霜は考えを巡らせながら、頷いた。
「東雲殿、ひとつお聞きしたいことがあります」
 秋霜は言った。多少の危険を侵しても、知っておきたいことがあった。
「雪野という娘の詮議を行われたのは、東雲殿でしたね」
「はい。そうですが、何か」
 東雲が問い返す。
「あの娘が自害するまでに、東雲殿は、あの娘に何を話されましたか」
「こちらで決定されたことについては、話したように思いますが」
 秋霜の顔を見て、東雲は言った。
「経緯についても、ですか」
「そうですね。空木の君がおっしゃったことと、秋霜殿が役目を持たれたことは話したと思います」
「そうですか。ありがとうございます」
 東雲の言葉に頷き、ふと思い当たって、秋霜は口を開いた。
「そういえば、今、館の外に馬は出ていますか」
「さあ、調べてみなければ分かりませんが────」
 東雲が、気づいたように顔を上げた。
「調べてみましょう」
 東雲は頷き、その場を急ぎ足で立ち去った。




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